【アメリカ合衆国】適用法と裁判管轄の選択に関し、海外企業との技術ライセンス契約において敢えて米国(ミシガン州)の側に変更いただいた案件
依頼内容
優れた技術ノウハウを保有する日本企業(製造業)が、アメリカ合衆国ミシガン州の現地パートナー企業に対してノウハウ使用を許諾する技術ライセンス契約を締結するにあたり、契約交渉を行う、との依頼内容。
対応と結果
本件で想定されたライセンス契約は、日本企業が米国現地企業に対してノウハウ使用を許諾すると共に技術指導を行うことの対価として、四半期に一度、北米市場での売上高に応じて技術ライセンス料の支払いを受けるとの内容でした。
当初は、日本企業が自身で契約交渉を行っていましたが、途中から弊所に依頼があり、日本企業の代理人として交渉することになりました。
本件における契約交渉の論点は多岐にわたりましたが、その中でも、日本企業にとって最も重要となる課題として、ノウハウ使用は許諾するものの、如何にして当該ノウハウを守るかという点でした。
上記の関わる一つの論点としては、ライセンス契約上の適用法と裁判管轄をどうするかという点もありました。日本企業は、当初は、適用法は日本法とし、裁判管轄も東京地方裁判所とすべきことを主張していました。
しかしながら、本件においては、現地の米国パートナー企業とのお取引の歴史が浅かったこと、また、プロジェクトで想定される期間から技術ライセンス契約が短期で終了してしまう可能性もあったこと、さらに、この日本企業は別件ですが米国での訴訟経験もあったことから、弊職から日本企業の経営者会議で進言して、適用法も裁判管轄も、敢えて米国現地パートナー企業の側にして頂きました。
即ち、ライセンス契約上の裁判管轄はミシガン連邦裁判所に、適用法もミシガン法として頂いたものです。その理由は、以下をご参照ください。
弁護士のコメント
国際取引の契約交渉においては、将来、不幸にして相手方と紛争になってしまった場合に、どこの国の法律の適用を選択するか(適用法の選択)、また、どこの国の裁判所で解決するか(裁判管轄の選択)についてライセンス契約書に定めておくことは、非常に重要になります。
そして、一般論としては、適用法は自国法とし、裁判管轄も自国の裁判所と規定しておいた方が有利であるとされます。一般的に、相手方のホームグランドで裁判をすることは容易なことではありません。また、この力関係は、裁判になる前の当事者間の契約交渉における力関係にもダイレクトに影響するため、交渉段階においても非常に重要な要素になると云われます。それはそのとおりだと思います。
しかしながら、海外企業との間で技術ライセンス契約を締結する場合には、上記の一般論ではなく、異なる配慮が必要となる場合があります。
技術ライセンス契約が継続する限り、適切な技術指導と正しいライセンス料の支払が確保される限り、それほど問題が生じることはありません。これらのために、法の執行力(Enforcement)のある技術監査権、会計監査権を適切に規定しておく必要があります。
しかしながら、技術ライセンス契約が終了した後は、上記の監査権を行使できる機会はなくなります。契約が終了して取引関係が無くなった後も、海外の現地企業が、従来の日本企業の技術をそのまま又は形を変えて使用し、現地市場で製品を販売して利益を上げるという事態は、米国に限らずよく起こります。この懸念は、技術ノウハウの内容が製品そのものではなく、製品の製造方法や合理的な製造プロセスにある場合には特に分かりにくいため、懸念は大きいものとなります。
異論はあると思いますが、適用法という観点から、日本法である不正競争防止法上の営業秘密の保護要件(特に、非公開性、秘密管理等)は、米国の営業秘密の保護要件より立証のハードルが高いとされるため、米国では営業秘密として保護されるノウハウが、日本では要件を充たさず保護されないと判示されるリスクは当然あります。
加えて、裁判管轄という観点からも、日本の証拠ルールでは基本的に自分達の側の手持ち証拠の範囲でしか勝負できませんが、米国では連邦民事訴訟ルールに厳しい証拠開示(Discovery)制度が定められていますので、相手方である米国現地企業が手元に持っている証拠関係をすべて開示させることができます。この点は、ライセンス契約終了後も、米国現地企業が日本企業のライセンス技術をそのまま使用している又は形だけ変えて使用して利益を上げていることを立証するのに、大きく貢献してくれます。
さらに、仮に、日本の裁判所で勝訴して営業秘密の侵害との判決を得ることができたとしても、これをそのまま、米国市場で適用、執行することはできません。日本国裁判所の判決を、米国裁判所で承認及び執行して頂く手続が必要となり、もうひと手間、かかります。
上記の種々の理由から、本件においては、適用法を敢えて米国現地法、裁判管轄も敢えて米国法(ミシガン州法)として頂きました。
もちろん、米国とは異なり、海外現地国にディスカバリ制度が存在しない場合、あるいは、そもそも、海外現地国の法制度それ自体のクレディビリティが低い場合には、上記のようには言えませんので、あらゆる要素を検討する必要はあります。
補足しますに、本件における技術ライセンス契約上は、技術監査権と会計監査権を規定すると共に、役員従業員を含めた厳重な機密保持義務、契約終了後の競合品・類似品の販売禁止等も規定すると共に、念のため最終的に開示したライセンス技術も敢えて一世代前のノウハウにして頂きました。それでも十分に市場競争力はありました。
その後、案の定、本件における技術ライセンス契約は、5年間で終了してしまいました。
